始まりは長岡式バックロードホーン (~2012年)
弊社音工房Zのフルレンジ1発のエンクロージャーの中で、内部に音道を有するいわゆるバックロードホーン型スピーカーは改善を重ねて現在のBHBS形状に至ります。オーディオ評論家の長岡鉄男先生のバックロードホーンにはじまり、BHBS形式を生み出したスピーカービルダーの石田健一さんとの出会い、音工房Zで今も続いているBHBS形式をユニットに合わせて改善する試みまでの流れをお話します。
このページは長岡式バックロードホーンやBHBSのメリット・デメリットを全て包み隠さずお話しますのでフルレンジ1発で理想的なシステムを組みたいと思っている全ての人に少なからず役に立つかと思います。
オーディオ評論家の長岡鉄男先生の自作スピーカーとの出会いは今から20年以上前になりますが、もしこの出会いがなければ自分でスピーカーの会社をやることはなかったと思います。 長岡先生のスピーカーはたくさん製作しましたが最も感銘を受けたスピーカーがD101Sスーパースワンというバックロードホーン型スピーカーです。
ヘンテコな形状のスピーカーからでる音場感と定位感、そしてネットワークレスの鮮度の高さは市販のマルチウエイではあり得ないものだと感じました。長岡鉄男先生はお亡くなりになられてしまい実際に会うこともできませんでしたが、、、 私はこの長岡先生の意志を勝手に引き継ぎ自作スピーカーを研究するサイト「究極の自作スピーカー追求道」を初めたのが2004年、そして2009年から本格的にスピーカーやキットを販売する「音工房Z」をはじめさせていただきました。
長岡式バックロードホーンとは
フルレンジ1発を使った長岡式バックロードホーンについて解説します。まず、市販のマルチウエイ型スピーカーと比較すると分かりやすいと思いますのでイラストをあげてみます。1枚目は一般的なスピーカーで多くのメーカーが採用しているマルチウエイバスレフ型スピーカーの内部構造、2枚目がフルレンジ1発のバックロードホーン型スピーカーの内部のイラストです。
スピーカーユニットは前からも後ろからも音が出ますが、スピーカーユニットの背面(ボックス側)から出た低音をどちらの形式も利用しています。バスレフ型エンクロージャーは低音の狭い帯域を持ち上げますが、バックロードホーン型エンクロージャーは低音から中音の広い帯域を大きく持ち上げます。
マルチウエイ方式は帯域分割を行うためのコイル・コンデンサー・抵抗を利用しますが、それらは全て抵抗成分ですので音を劣化させてしまいます。フルレンジ1発の場合は帯域分割を行う必要がありませんので、鮮度の高い音を楽しむことができ、定位感も良いのが特徴です。しかし口径の小さいフルレンジは低域が不足します。そこで低域を増強するためにバックロードホーン形式を使うわけです。
長岡式バックロードホーンは、低音から中音までの広い帯域を大きく持ち上げることがでますが、普通のバスレフ用のフルレンジスピーカーを使うと逆に低域が持ち上がりすぎてしまい低域過多になります。そのため長岡式バックロードホーンでは普通のバスレフに使うと低域が出にくい「オーバーダンピングユニット」といわれるスピーカーユニットを使うのが一般的です。
バックロードホーンスピーカーはもともとはアンプの出力が弱い時代に能率をかせぐために生まれたものでしたが、マルチウエイスピーカーにはないメリットもあるため一部のオーディオファンには現在でも脈々と利用され続けています。一般的に言われているバックロードホーンのメリットは↓のようなものです。
■点音源に近いスピーカーになるため、音場感・定位感が良い
■スピーカーユニットとアンプを直結してつなぐため、音の鮮度が高い(ネットワークレス)
■高い能率で、元気がある鳴りっぷりの良い音を楽しめる
■小音量再生時でも解像度が高くぼやけない
■音離れが良い
ここの部分だけ見ると理想的なスピーカーシステムと思えるかもしれませんが、欠点もあります。長岡鉄男先生もバックロードホーンシステムは「ある一面を見れば高級スピーカーシステムに勝るが、別の面ではラジカセに負ける」というような趣旨のことを書かれています。欠点としては以下の2つが代表的な欠点です。
■低域がワンテンポ遅れて聞こえる
■土管で喋ったようなボーボー言う共鳴音がきこえる
音工房を開業してからの最初の2,3年は長岡式バックロードをベースに上記の欠点を改良した(つもりの)ものを販売させていただいておりました。お客様から多くのご感想をいただき、熱烈に好きになってくださる方もいますが、一般性という意味でマルチウエイ方式に勝るのは難しいと思っていました。ところが、とある変形バックロードホーンを実験的に販売したところそれまでにない高い評価をお客様からいただき以降はこのバックロードホーンを改良していくことなりました。その変形バックロードホーンこそがBHBSです。
長岡式バックロードからBHBSへ(2014年~)
BHBSエンクロージャーとはバックロードホーン・バスレフを略した名称です。石田健一さんというスピーカービルダーが始められた方式です。「ブログハイエンド自作スピーカー」というブログで情報発信をされています。石田さんはおそらく日本で最も沢山のスピーカーを自作されている方で、開業前から懇意にしていただいています。BHBSエンクロージャーはステレオ誌の自作スピーカーコンテストで3連覇を達成されています。
BHBSの構造と、通常のバックロードホーンの構造の違いをイラストで解説します。通常のバックロードホーンはスピーカーユニットの背面内部の迷路がだんだんと広がるホーン構造のようになっていまして最後の音の開口部分がホーンの出口で最大の開口となっています。一方のBHBS構造は、途中までは同じですが最後のホーンの開口部分にバスレフダクトを取り付けているのが特徴です。
このBHBS構造は石田さんがスーパースワンのホーンの出口をタオルを詰めて調整しているときに偶然試していたのがうまくいったのがきっかけではじめたとのことですが、「ホーンは広がって大きくなるもの」という固定概念が頭にある方には強い違和感を感じるかもしれません。バックロードホーンを単純なホーンの動作だけで考えると開口部分を絞るのはたしかにNGでしかないのですが、バックロードホーンは「バスレフ、共鳴、迷路、ホーン等」が複雑にミックスされたものと考えるとホーンの開口の口を絞ることには何ら問題はなく、正しく設計されたBHBSは長岡式バックロードの欠点(低域遅れと中域のパイプ共鳴音)の大半を克服していることがわかりました。
音工房Zでは2014年頃から販売するフルレンジ1発のスピーカーで内部音道を有するものはBHBSのスタイルでの設計に全て変更しました。BHBSの箱は従来型のバックロードのデメリットを単に克服しているだけではなく、沢山のメリットがありますので列挙してみます。
●従来型バックロードよりもローエンドを大きく伸ばすことができる。
●シングルバスレフより、音が開放的。詰まった感じがしない。
●シングルバスレフではダクトからの高域漏れを防ぐために吸音材を多く使うが、BHBSは内部音道で高域は減衰されるので最小限の利用ですむ。
●ダクトポートによる調整が設計時点、設計終了後も簡単に行える。利用される方の好みや視聴環境に合わせた調整を容易に行うことができる。
●BHBSの音道はシンプルで短いものが多いので自作派にとっては組み立てが楽。パーツ点数もすくないので経済的。デザイン上のバランスも取りやすい。
●スピーカーユニットをさほど選ばない。従来型ではオーバーダンピングユニットでないと鳴らすのが難しいが、BHBSでは設計次第で幅広いユニットを使うことができる。(個人的には少しだけオーバーダンピングしたものを利用することが多い)
それではBHBSにデメリットはないのでしょうか?
BHBSのデメリットは「●低域から中域にかけてのディップが発生」すること。それを回避しようとして音道を長くしすぎると「●低域の遅れ」が発生することです。この2つの欠点は完全に消すことはできず、スピーカーユニットに合わせて音道の長さ調整や、目立たない帯域にディップを移動する手法を現在とっています。どんなエンクロージャー形式にも長所と短所があるものですが、BHBSこそが最もフルレンジ1発を理想的に鳴らすことができる形式だと私は考えております。
BHBSを含むフルレンジ箱を音道長さで4分類(2022年~)
音工房Zでは2014年以降フルレンジスピーカーユニットの能力に合わせたBHBSスピーカーを数多く設計・販売させていただきました。幸いにも多くのオーディオファンの方から高い評価をいただき、BHBSエンクロージャーの汎用性と普遍性を改めて実感しました。
多くの実験・測定・ブラインドテスト・比較視聴を繰り返してきましたが、弊社のBHBS箱は大まかに音道の長さで2つに分けました。それにシングルバスレフとダブルバスレフをあわせてフルレンジ1発の箱を4つに大きく分けて名称を再構築しました。
最終的な音の評価は優劣よりお客様の好みによる部分も大きいので、お客様の好みのフルレンジの箱を選択していただく際の目安になるかと考えました。4つの箱の特徴メリット・デメリットを解説してゆきます。なおZ600シリーズはamazonでMDF木材を使った製品、Z700シリーズは音工房Zのホームページ販売でホワイトバーチを木材に使った製品になります。
Z600/Z700 バスレフ(BS)
<バスレフの特徴>市販品の最も⼀般的な形式。フルレンジ1発にバスレフを入れた時の⻑所としてはフラットで時間特性も優れている点で万人受けする音。短所としてはfd以下のローエンドがでにくい、詰まった感じの⾳になりやすい、ダクトからの⾼域漏れが多いなど。箱設計の計算式はシンプル でほとんどシミュレーション通りの共振周波数を得ることができる。インピーダンス特性は山が2つでき、1つの谷(fd)ができる。
Z601/Z701 ダブルバスレフ(DB)
<ダブルバスレフの特徴>バスレフの⽋点であるローエンドを引き伸ばすことができる。代わりに低域から中域にかけてディップができる。 ⾳は開放的、⾼域の漏れも少ないが中域のディップを⽬⽴たないようにする⼯夫が必要。箱設計の計算式はバスレフより複雑だが、近似値を得るシュミレーションは可能。インピーダンス特性は山が3つ、谷が2つ(fd1,fd2)できる。
Z602/Z702 ショート・バックロードホーンバスレフ (S-BHBS)
<S-BHBSの特徴>総⾳道が短い(概ね1.5m以下)バックロードホーン形式(BH)&出⼝をダクト形状(BS)のスピーカー。ダブルバスレフより広い帯域をもちあげられるので、ディップはマイルドになる。低域位相特性は上記2つのエンクロージャーに劣るのが⽋点だが、1.5m未満だと低域の遅れ感はほとんど気にならない。ホーンカーブとダクト調整で従来型のバックロードの⽋点である中域パイプ⾳はほぼ克服できる。インピーダンス特性は山が3つ、谷が2つでき、最後に小さい4つ目の山ができることが多い。
<ダブルバスレフとS-BHBSの違い>
空気室が明確に2つに分かれているのがダブルバスレフ、第2空気室の一部が音道になっているのがS-BHBS。 第1ダクトが単純なダクト形状がダブルバスレフ、ホーンのような段階的な音道構造になっているのがS-BHBS。 インピーダンスの山が3つなのがダブルバスレフ。4つめの小さな山がでることが多いのがS-BHBSとしています。
Z603/Z703 ロング・バックロードホーンバスレフ (L-BHBS)
<L-BHBSの特徴>総⾳道が⻑い(概ね1.5m以上)バックロードホーン形式(BH)&出⼝をダクト形状(BS)。ローエンドから中域帯域まで広範囲に持ち上げる事が可能なため、FOSTEXハイ上がりオーバーダンピングユニットへの採用が多い。バスレフと並べて比較して聞くと低域の遅れ感(余韻のような感じ)が気になる人はいる。低域は箱の設計は経験とカンをベースに、聴感確認を⾏いながらテスト&エラーを行う。インピーダンス特性は山が4つ以上でる複雑なかたちとなる。